1970年の亡霊
 男の病室の隣で、三山は調べ物をしていた。完全黙秘をしている相手に対し、ただ自供を待っているだけでは埒があかない。外堀から攻める為の材料を彼女は探していた。

 男の取調べに関しては、三山と加藤が専任として当たる事になっている。

「よぉう」

 声と同時に、キーボードの横へ紙コップに淹れられた熱いコーヒーが置かれた。見上げると、まだ眠り足りないといった寝ぼけ眼の加藤が、パソコンの画面を覗き込んでいた。

「すいません、コーヒー頂きます。でも、交代の時間にしてはまだ早いですよ」

「年取ると、早起きになっちまうんだ。それに缶詰にされてっから夜遊びも出来ねえ」

「じゃあ、早起きついでに私の仕事、手伝って貰ってもいいですか?」

「まさか、この俺にパソコンをかちゃかちゃやれってんじゃねえよな」

「出来ればやって欲しいんですけど」

 三山は加藤の為に、もう一つの机に置かれたパソコンを立ち上げた。

「そういえば、ここんとこあいつ見ねえな」

 三山は加藤の言葉を聞き流すかのように、捜査資料へ目を落としていた。返事をしない三山を見て、加藤はどうしたんだ?という視線を向けた。

「三山、なんか…あったのか?」

 資料を捲る手を止めた三山は、少し考えてから声を潜めるようにして話し始めた。

「加藤さん……」

「な、何だよ突然……」

「少し気になる事があって……多分私の思い過ごしだとは思うんだけど」

 三山は辺りを憚るように、河津について話し始めた。

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