1970年の亡霊
死を覚悟していたのに、自分は生き長らえている。自殺を警戒してなのか、両手は縛られ、舌も噛まないようにわざと酸素吸入用の管を咥えさせられている。
考えたものだなと、垣崎は思った。
目覚めた時、彼は自分が捕らえられた事を一瞬判らなかった。生きていたという事実すら、彼は受け入れられなかった。
正直、今でもまだ現実を受け入れられない気持ちが彼にはあった。
意識が戻ると、早速尋問が始まった。
生ける屍と化した私に、一体何を語れと言うのだ……
問い掛けて来る捜査官の言葉を、彼は他人事のように聞き流していた。
二度目の尋問の時、垣崎は初めて担当の捜査官の顔を見た。それまでずっと天井しか見ていなかった彼であったのに、その時は何気無しに首を横にしていた。
彼女の語る言葉に、彼の意識が初めて向き合った瞬間でもあった。
その女性捜査官は、質問をして来るというより、同意を求めて来る感じの尋問をして来た。
彼女が調べ上げた内容に、垣崎は感心した。単に事象だけを調べたのではなく、こちらの心情に至る部分まで調べていた。
「貴方達がやろうとしていた事を、私は許せないけれど、そこに至ってしまった貴方達の気持ちとかは判るような気がする。目指していた道は、本当は正しかったのに、歩き方を間違えたのではないのかな……」
その言葉がずっと垣崎の胸の中で木霊した。
初めて彼が彼女に口を利いた言葉は、
「君の名前を教えてくれないか」
であった。その時彼女は、
「三山百合です」
と答えた。
考えたものだなと、垣崎は思った。
目覚めた時、彼は自分が捕らえられた事を一瞬判らなかった。生きていたという事実すら、彼は受け入れられなかった。
正直、今でもまだ現実を受け入れられない気持ちが彼にはあった。
意識が戻ると、早速尋問が始まった。
生ける屍と化した私に、一体何を語れと言うのだ……
問い掛けて来る捜査官の言葉を、彼は他人事のように聞き流していた。
二度目の尋問の時、垣崎は初めて担当の捜査官の顔を見た。それまでずっと天井しか見ていなかった彼であったのに、その時は何気無しに首を横にしていた。
彼女の語る言葉に、彼の意識が初めて向き合った瞬間でもあった。
その女性捜査官は、質問をして来るというより、同意を求めて来る感じの尋問をして来た。
彼女が調べ上げた内容に、垣崎は感心した。単に事象だけを調べたのではなく、こちらの心情に至る部分まで調べていた。
「貴方達がやろうとしていた事を、私は許せないけれど、そこに至ってしまった貴方達の気持ちとかは判るような気がする。目指していた道は、本当は正しかったのに、歩き方を間違えたのではないのかな……」
その言葉がずっと垣崎の胸の中で木霊した。
初めて彼が彼女に口を利いた言葉は、
「君の名前を教えてくれないか」
であった。その時彼女は、
「三山百合です」
と答えた。