1970年の亡霊
「……私はこうして自分の正体を包み隠さず明かした。しかし、こんな私とともに反逆の徒となった者達の事までは、語れない……厚かましいお願いだが、武人としての最後を全うさせて貰えませんか」

「垣崎さん、貴方は自分お一人で全ての罪を被ろうとお考えなのですね……でも、それは違うような気がします。自らの命で償えば、全てが許される、そう思っていらっしゃるのですか?」

「勿論、この命一つだけで購えるとは、毛頭考えては居りません。前途ある有益な若者を多く死なせてしまいました。そういう観点に立てば、貴女が仰るように、全てを白日の下に曝してこそ、そういった者達への償いであるというのも判ります。しかし、私は武人だ。頑なだと言われても、こればかりは変えられない……」

「……こうしませんか。私が勝手に話します。垣崎さんは黙っていて下さっても構いません。違っていたら、首を横に振って下さい。これならば、自らの口から語った事にはならないのではありませんか?」

 垣崎は苦笑いを浮かべ、

「違っていても、そういう意思表示をしなければどうします?」

「貴方の心を…真実この国を思う気持ちを信じます……」

「三山さん、貴女のような人がもっと多く世に現れてくれたら……」

 垣崎は、そこで言葉を切るとゆっくりと瞼を閉じた。

 三山はその姿を暫く見つめた後、一旦病室を出た。彼女は隣の部屋へ行き、自分の捜査ノートを手にした。そのまま垣崎の部屋へ戻り、尋問を再開するかどうかを彼女は迷った。

 垣崎の心はまだ閉ざされている。無理にこじ開けても、結果は悪くなるばかりではないだろうか。

 ふと、彼女は垣崎のベッドへ読み掛けの小説を置いたままにして来た事に気付いた。

 あの本は古本屋でかなり安く求めたものだったから、かなり表紙が痛んでいた。先人が何百回となく手にした証なのだろう。理由もなくそんな事を考えた。

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