1970年の亡霊
「垣崎剛史が供述した内容は、自衛隊内の一部グループに率いられた部隊が、永田町及び霞ヶ関の各省庁を襲撃、支配下に置くというもので、その決行日は明後日の十一月二十五日を予定しているとの事です。もしこれが事実であるのならば、これは完全に国家へ対する反逆であり、クーデターです」

「三山警視、現実にそれが行われる可能性は?」

 本庁捜査一課から応援に来ている捜査員が、手を挙げ質問した。

「現在、既に都内及び神奈川、埼玉、千葉の各県は、内閣総理大臣命令で自衛隊の治安出動対象地域になって居ります。その他の各道府県に於きましても、名目は災害出動ではありますが、治安出動に準ずる形で警備その他に当たって居ります。推測ではありますが、こうした既に出動している部隊を動員されれば、数時間を経ずして政府各省庁が攻撃、占拠される事は可能です」

「現在のところ、そういった動きはあるんですか?」

「その事に関しましては、今のところ兆候らしきものは無いという報告を受けて居ります。しかし、一連のテロ及び銃撃戦が、明後日のクーデターへ導く為の偽装であると考えれば、動きは10.1の爆破テロ以前からあったと考えて宜しいかと思います」

「うむ。これまでの経過報告で、我々は既にそういう疑いを自衛隊内部に持ち、捜査して来た訳だが、垣崎剛史の供述はそれを裏付ける形となった訳だ」

「はい。ただ、ここで申して置きたい点は、これまでもそうですが、自衛官全てがこの計画を知っていて加わっているか、或いは加わろうとしているかに関しましては、甚だ疑問があります」

「あくまでも一部のグループに扇動されていると、そういう事ですね?」

「はい。垣崎剛史もその点をはっきりと強調して居りました」

「ここまで事実関係がはっきりしているんだ。あとはどうそれを阻止するかだ。その後、垣崎はテロ実行者、クーデター首謀者の名前は供述しているのかね?」

「いえ。名前は挙げて居りませんが、話の内容と、これまでの捜査結果から、陸上自衛隊第一師団の内務班、及び退役自衛官で組織された桜友会や陸友会などの親睦団体が関わって居り、それらをまとめているのが『つるぎ会』であると判明して居ります」

 つるぎ会の名前を初めて聞く捜査員も少なくなく、何だ?というどよめきが湧き起こった。

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