1970年の亡霊
 本庁の会議室では、ウエブカメラを通して大倉病院での様子が伝えられていた。

 そこに居る顔触れは、警視総監を筆頭に局長クラスらで、本庁の主立った者全てが集合していた。

 警備局長の富樫は、ここまでの話を聞きながら、ある懸念を抱いていた。富樫はそれを確認する為に、ネットで繋がれた画面へ発言を求めた。

「検察との連携はどうなっている?」

「それについては私の方から説明しよう」

 声が返って来たのは、画面の向こうからではなく、同じ会議室にいた副総監からであった。

「警備局長の懸念は恐らく、検察がこの件に強制捜査及び逮捕に関する執行手続きに応じてくれるかどうかという事だと思うが?」

 富樫は副総監にそうですと肯いてみせた。

「逮捕状及び捜査令状を取る為の容疑者特定及び、容疑そのものが私には足りなく思えたものですから」

「事前にこの件を報告された時に、一度検事総長へ確認をしてみたのだが、その時点では、捜査の対象範囲を明確にさえすれば問題ないと言われてね。つまりは、いきなり本丸を落とそうとせず、出城から攻めろという暗示だな」

 副総監の話は、聞きようによってはどうとも取れる内容だ。検事総長の見解をよくよく吟味すると、

 サイコロ博打のような一か八かの案件では、礼状は出せないという含みにも取れる。

 余り大物狙いで墓穴を掘るな……

 言葉を変えれば、

 確実に釣り上げられる獲物で取り敢えずは我慢して置け……

 と言われているようなものだ。

 ネットで繋がれた画面の向こうでは、加藤がそんな思いを抱いていた。

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