1970年の亡霊
「職場でご主人と仲良くされていた方とかはいらっしゃいましたか?」

「あのぉ……主人は、余り隊の方とお付き合いしていなかったようで…お酒とかもまったく飲みませんでしたから……」

「そうですか。でも、突然居なくなられて、自衛隊の方でもいろいろと心配されたんじゃないのですか?」

「一応、隊の方が二度、家には来られましたが、主人を心配してというより、隊の体面を心配されているのが、態度で伝わりました」

「不祥事とか、新聞沙汰になるような事に、過敏になっているのでしょうね。その辺は、私達の組織と一緒ですよ。ところで、どうして今まで届出をされなかったのですか?」

「本当は、直ぐにでもこちらへ伺うつもりで居りました。ですが、隊の方がもう少し様子を見てからにしてはと、再三仰るものですから……」

 堀内は、垣崎明子が口を濁した意味を何となく理解したような気がした。

 恐らく、行方不明になった夫の心配よりも、自衛隊の体面ばかりに気を取られている組織に不信感を抱いたのであろう。

 この辺の感情は、一般人には計り知れないものだと思う。

 唯一判るとすれば、同じような組織である警察官の家族位のものである。が、しかし、似て非なるものが、自衛隊と警察なのである。

「一応、隊の方でも心当たりを当たって下さったりと、いろいろ気には掛けて頂いて居りました」

 明子は慌てて自衛隊の怠慢さを庇うような物言いをした。

 寧ろ、彼女のこの言い方が自衛隊側の怠慢さを窺わせる。



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