1970年の亡霊
 鹿島と総監は、無言のまま向き合っていた。幕僚長が隙を見て鹿島を取り押さえようと身構えるが、鹿島の全身から発せられる気に押され、隙を見出せないでいた。

「お答え……頂けないのか、或いは、もうそんな記憶も失せたという事なのでしょうか」

 と言って、鹿島はおもむろに刀の刃を逆手に持ち替えた。

 隊服のボタンを引き千切るようにして外し、

「この場を借ります」

 と言いながら、室内のある一点を見た後、そこへ座った。

「い、いかん!やめろ!」

「命を粗末にするんじゃない!」

「来るな!」

 そう叫んだ刹那、鹿島は刀の中程を逆手に握ったまま、切っ先を腹部に突き刺した。

「むう……っん!」

 刺した刀を左から右へ割くと、今度は刃先を上へ向けそのまま一気に引き上げた。

「ぐうっ……!」

 どす黒く変色した顔。真っ赤に充血した目。

 鬼のような形相で鹿島は呆然とする総監達を睨んだ。片頬だけを少し上げ、蔑むような表情をさせた。

「武、人の、最後を……その目で、と、とくとご覧あれ!」

 胸元近くまで引き上げた刀を抜くと、鹿島は血で染まった刃を首に当て、頚動脈を切ろうとした。だが、既にそれだけの力が残っていなかったのか、薄く首の皮を切っただけで彼の目的は達せられなかった。鹿島は最後の力を振り絞り、刀を床に立てるようにし、伸び上がるように自分の喉を切っ先へ突き刺した。


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