1970年の亡霊
河津は自分が一体どういう行動をしているのかを、冷静に振り返れるだけの精神が既に破壊されていた。
今の彼の思考は、ただただ銃弾に怒りを込めたいという一点になっていた。
明け方のオフィス街を歩き回っているうちに、丸の内方向へ来ていた。前日までなら、交差点や歩道に自衛官がこれ見よがしに銃を構えて警備に当たっていたのだが、今朝は何故か姿を見ない。
尤も、前日までと同様であったのなら、河津の姿を一目見た瞬間、そこら中から自衛官や機動隊員が飛んで来たであろう。
目指すビルが見えた。
向かいのビルの上垣に腰を下ろし、そのビルを窺った。
辺りを睥睨するかのように聳え立つ高層ビル。無機質な色を放ち、何の温もりも感じさせないビルは、丸光商事グループの総本山、東京本社であった。
河津の前を何台かの役員車が通り、本社ビルの前に停まった。
彼が狙っている人物はまだ来ない。
黄色く濁った眼差しを一点に集中させている姿は、最早数日前までの河津ではなかった。
竹橋方面から一台の黒い車がやって来た。本社ビルの前が慌しくなった。警備員が通行人を止め、ビルの中から出迎えの者が列をなして並んだ。
河津がゆっくりと立ち上がった。
背広の内懐に右手を入れ、行き交う車を無視しながら目の前の道路を横断し始めた。
急ブレーキの音。怒声。クラクション……。
河津の耳にはそれらの音は届いてはいなかった。
彼の目は、黒塗りの車から降りて来ようとした初老の男を捉えていた……。
今の彼の思考は、ただただ銃弾に怒りを込めたいという一点になっていた。
明け方のオフィス街を歩き回っているうちに、丸の内方向へ来ていた。前日までなら、交差点や歩道に自衛官がこれ見よがしに銃を構えて警備に当たっていたのだが、今朝は何故か姿を見ない。
尤も、前日までと同様であったのなら、河津の姿を一目見た瞬間、そこら中から自衛官や機動隊員が飛んで来たであろう。
目指すビルが見えた。
向かいのビルの上垣に腰を下ろし、そのビルを窺った。
辺りを睥睨するかのように聳え立つ高層ビル。無機質な色を放ち、何の温もりも感じさせないビルは、丸光商事グループの総本山、東京本社であった。
河津の前を何台かの役員車が通り、本社ビルの前に停まった。
彼が狙っている人物はまだ来ない。
黄色く濁った眼差しを一点に集中させている姿は、最早数日前までの河津ではなかった。
竹橋方面から一台の黒い車がやって来た。本社ビルの前が慌しくなった。警備員が通行人を止め、ビルの中から出迎えの者が列をなして並んだ。
河津がゆっくりと立ち上がった。
背広の内懐に右手を入れ、行き交う車を無視しながら目の前の道路を横断し始めた。
急ブレーキの音。怒声。クラクション……。
河津の耳にはそれらの音は届いてはいなかった。
彼の目は、黒塗りの車から降りて来ようとした初老の男を捉えていた……。