1970年の亡霊
 河津の姿にやっと気付いた警備員は、彼の気配がただならぬものだと察し、車に近付けないよう駆け寄った。

 河津は一切の躊躇いを見せず、懐から拳銃を抜き銃口を車の後部座席へ向けた。

 警備員が河津の手にある銃を見て怯んだ。

 一瞬の間が空いた。

 突然、後部座席の窓ガラスがバシッ!という音とともに割れた。

「……!?」

 我に返ったかのように、河津は素早く銃弾が飛来した方向を見定めながら、その場に伏せた。

 最初の一弾から一、二秒の間を置いてから、二弾目が一弾目と同じ場所を撃ち抜いた。

 河津は後部座席へ飛び付き、ドアを開けようとした。

 彼の身体がバネ仕掛けの人形のように跳ねて、そのまま車に凭れるように倒れた。

 銃声の方向へ身を捩ると、宅配便の車が猛スピードでこちらへ向かって来るのが見えた。

 河津は立ち上がろうとした。だが、下半身に力が入らない。

 右手で握っていた筈の拳銃が無い。撃たれた時の衝撃で落とした拳銃は何処かと見渡した。

 あった。

 何とか上体の力で這い、落とした銃に手が届いた。

 車のスキッド音と悲鳴が飛び交った。

 宅配便の車が真っ直ぐに突っ込んで来る。

 河津は銃を運転席へ向けた……。



 

 
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