1970年の亡霊
 垣崎剛史の血液型、身体特徴が類似する身許不明死体は、照会の結果、全部で七体もあった。

 発見日時から更に絞り込んで行くと、三体が該当するかも知れないと判明した。

 が、それら三体も垣崎明子から渡されていた垣崎剛史の写真と照合してみると、いずれの不明死体も似ても似つかぬ人間であった。

「空振りかあ。じゃあこれを他府県の県警本部に回して置いてくれ」

「あのぉ、君津署から上がっている不明死体というのが、写真照合不可になっていて、他とは別枠になっているのですが」

「どれ、見せてごらん」

 ファックス用紙を手にした堀内は、瞬時にこれじゃないか?と思った。

「千葉の首無し死体……こいつのDNAデータを至急取り寄せてくれ。それと、今から垣崎明子に会いに行く」

「キャップ、これが垣崎剛史だと?」

「まだ答えを出すには早過ぎるよ。が、可能性はある。ならばそれを調べるのが俺達の仕事だ」

 車で向かった垣崎明子の家は、ごく普通の建売住宅だった。

 自衛官というと、皆官舎に住んでいるものと思っていたから、少し意外な感じがした。

 堀内が垣崎の自宅へわざわざ足を運んだ目的は、垣崎剛史の衣類や所持品等から、DNA鑑定が出来そうな物を持ち帰る為であった。

「もう主人の居場所が判ったのですか?」

 玄関先で堀内の姿を見た瞬間、明子は声を掠らせ詰め寄った。

「いえ、そうではなくて、もっと詳しい手掛かりをと思いましてね。判断材料が多ければ多いほど、確かな答えに近付くというものでして」

 何とか当たり障りの無い事を言ってその場をごまかした。

 まだ結果が出ていないうちから、首無し死体との関連性をなどとは、口が裂けても言えない。

 失踪してからかなりの日数が経っていた為、なかなかDNA採取に回せる遺留品を見付け出せなかった。

 それでも指紋採取に回せそうな品物は押収出来た。

 それらの品物を手にし、垣崎の自宅を出たのは、訪れてから二時間ばかり過ぎてからだった。


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