1970年の亡霊
 警視庁は、今回のクーデター未遂事件に関しては、その事実の全てをマスコミに流す事を規制した。ある意味、憲法違反にも抵触しかねない措置ではあったが、全ての真相を伝えてしまった方が危険であるとの判断をした為である。

 理由は、一握りの自衛官に操られた他の自衛官達を慮っての処置と、今回の件で国民が抱いてしまった自衛隊への不信感を少なくさせようという配慮があった。

 特に、10.1爆破テロ後の暴動鎮圧が、実は自作自演であったなどという事が判ってしまうと、マスコミに面白おかしく書かれる報道でどんな脚色をされるか知れたものではない。そういい切る捜査関係者が殆どであった。

 事件への関与が判明した人間が、その後も続々と逮捕拘留された。

 だが、警察当局が一番捕まえたかった男は、その消息がまだ知れない。

 陸上自衛隊東部方面軍第一師団第三十二連隊所属、園田誠二等陸尉。

 彼の指名手配写真が全国に配られたのは、事件収束後三日を経てからであった。

 十二月に入り、警視庁はジャパン・トータル・ケア及びマルミツ経済研究所を送検した。

 容疑は、実在しない人物を会社代表にした詐欺、公正証書原本不実記載同行使、他電磁的不正アクセス等であった。

 これを糸口に全貌解明に向かう意図であろう事は、誰の目にも判った。

 三山は、今それに掛かり切りとなっている。

 加藤の身柄は、まだ本庁への捜査応援という形のままになっていたのだが、今回の件で正式に本庁機動捜査隊への復職が決まった。

 実は、加藤自身はまだその事をしらされていない。今日は、それで呼び出されたのだが、加藤は単に事件報告の為に呼び出されたのだろう位にしか考えていなかった。

 久し振りに本庁の中を歩いた。少し早めに来たのは、三山のところへ先に顔を出そうと思ったからだ。


< 363 / 368 >

この作品をシェア

pagetop