1970年の亡霊
 板橋署へ戻ると、刑事部屋がやや騒然としていた。

 どうしたのかと堀内が尋ねると、同じ課の黒田巡査部長が、

「千葉のイモ達が眠たい事言ってるんですよ。それで、課長がぶんむくれてるんです」

 と、その課長以上に怒りを顕わにし、捲くし立てた。

 首無し死体のデータを送れとの問い合わせに対し、千葉県警の回答は、

『垣崎剛史のデータを至急送付せよ』

 の一点張りであった。

 堀内は捜査一課長のデスクへ顔を出した。

「てめえらのヤマを横取りにされるとでも思っているのですかね。ケツの穴の小さいやつらですよ、まったく」

 堀内より一回り以上年下の箭内課長は、日頃から堀内に全幅の信頼を置いていた。

 接する際の言葉遣いまで、どちらが上司だか判らない位、改まったものになる。

 実際、現場捜査に関しては、堀内の方が何倍も場数を踏み、修羅場を潜って来た。

 堀内は堀内で、一年前から板橋署に配属になったこの上司を陰から常にサポートして来た。

「縄張り意識は何処にでもあるもんですが。一応、垣崎の自宅から本人の遺留品を押収して来ましたので、その旨を先方へ連絡されたら如何でしょう」

「癪に障るがそうするしかないですね」

「宜しければ、私が電話を入れましょうか?」

「ホリさん、そうして貰えますか。私が話すと喧嘩になりそうだ」

 苦笑いを浮かべながら、箭内課長は堀内に任せると言った。

 早速、君津署へ電話を掛け、捜査本部の現場キャップに繋いで貰った。


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