1970年の亡霊
交錯
 する事無しにパソコンのデータをただ眺めているのは、ある意味苦痛とも言えた。

 過去の事件データの整理。が、実際には殆ど整理し尽されていたから、文字通り眺めているだけにすぎなかった。

 そんな三山のケータイが、デスクの上で震えた。

 液晶画面にメール着信の知らせがスクロールされている。

 二通のメールが届いていた。

 勤務時間中にメールを寄越す相手はそういない。

 誰だろうと思いながら、送信者の名前を確かめた。

 最初のメールの送り主の名前を見た瞬間、三山の顔が綻んだ。

 それまでの陰鬱な気持ちとは打って変わって、心が浮き立つような気分になった。

 加藤からのメールだった。

 彼がメールを寄越すなんて、どういう風の吹き回しなのだろう。

 急いで文面を読んでみると、

『明日、久し振りに東京へ行く。

 時間があったら、あんたの奢りで一杯やらないか』

 加藤の性格がそのままメールの文面に表れていて、何だかそれだけで嬉しくなった。

 直ぐに返信しようかと思ったが、もう一通のメールを先に読む事にした。

 送り主は、つい最近まで自分の部下であった三枝からのものであった。

『至急相談したい事があります。

 課長の意見を伺いたい事案です』

 三枝からメールが来るなんて思ってもいなかったから、三山はその事だけでも少し驚いていた。

 相談したい事案?

 今の私に?

 元の部下から頼りにされるのは、そう悪い気分ではない。しかし、今は部署が違う。

 その自分に相談したい事案があるという事は、今の上司に話せないのか、或いは話してはみたが取り合って貰えなかったかのどちらかだと推測はつく。

 その辺りの勘働きは、人一倍持っている三山だ。


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