1970年の亡霊
「よぉ!」

 三山の姿を見た加藤が無愛想に手を上げた。

 職務上の階級は三山の方が遥かに上だが、不思議と二人の間にはそういう意識は欠片も存在しない。

「少し太られました?」

「会って早々ご挨拶だな。体重は変わってねえよって言いたいけど、最近運動不足なもんで腹回りがダブついちまった。そういうあんたこそ、夏バテとは無縁のようだな。今の方がふっくらして女らしく見える」

「ほんとですか、可愛く見えます?」

「何だよ、あんたがそんなふうにしてしなを作るなんて、こりゃまた嵐の前触れか?」

「加藤さんって、ほんと女性に対してのデリカシーが欠如してますね」

「心配すんな。これでもちゃんと人を見てるんだ」

「その言葉が本心だとしたら、私、結構傷付くかも」

 他愛もない会話。

 けれど、素直になれる瞬間でもあった。

 初めて配属された警察署で一年間捜査を共にした仲間。そして、十年という時を経た後に、未解決だった殺人事件を解決へと導いた同士。

 単なる仲間、先輩後輩といった関係以上の、他人が窺い知る事の出来ない深い絆のようなものが、二人の間には在った。



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