1970年の亡霊
「何だよ。強気の塊みたいなあんたがそんな弱気になって。じゃあ、俺なんかどうすりゃいい?弱音吐こうにも、四十半ば過ぎのデカ上がりなんざ、潰しが利かなくてホームレスになっちまうご時勢だぜ。あんたを信じ、認めた人間が今の姿を見たらがっかりすんだろうなぁ……」

 加藤の言葉を聞き、三山は益々落ち込んだ。

「刑事になり立ての頃、当時の先輩に言われたんだ……」

 徐に加藤は自分の若い頃の話をし始めた。

「最初に配属されたのが下町の小さな署でさ、コロシ(殺人)とかタタキ(強盗)みたいなヤマは滅多になくて、盗犯ばかりが忙しい所だったんだ。一課に配属されたっていうのに、来る日も来る日もノビ(空き巣)とかの応援さ。下着ドロ一匹ご用とするのに、全署員駆り出されてよ。で、その事をつい愚痴ってしまったんだ。刑事になり立てだったから、どっか気負ってたんだろうなぁ……」

 刑事になったばかりの若い加藤を三山は想像してみた。そして、十数年前の自分とをそれに重ね合わせてもいた。

「ある晩、同じ班の先輩と飲んでいて、自分は何の為に強行班(一課)に配属されたのか判らないみたいな事を言ってしまったんだ。そしたら、その先輩に思いっ切り引っ叩かれてさ…俺達みたいな人間が忙しい方が、良いって思ってんのか!警察は暇な方がいいんだ。特に、コロシやタタキを扱う俺達の係はな…て、そう言われて返す言葉を失ったよ」

 勘の良い三山は、加藤が自分に何を言わんとしているのか、何と無く想像出来た。

 だが、加藤の次の言葉は三山の想像とは少し違っていた。

< 44 / 368 >

この作品をシェア

pagetop