1970年の亡霊
 加藤の口調が改まったものに変わった。

「犯罪を憎み、犯人を憎む……ガイシャやその家族、遺族とかの無念、憤りなんかを背負い込み、ホシを挙げる……そのホシに死刑判決が出たとするよな、てえ事はだ、絞首台からぶら下がるホシの足を引っ張る片棒を担いだのと同じって事だ」

 空になったジョッキを指差し、もっと飲むか?と三山に尋ねた。こくんと頷く三山。

「そう考えるとな、とてもじゃねえが、仕事なんて言葉で簡単に割り切れなくなっちまった……。それでも今までやって来られたのは、信じていたからだ」

 幾分、酔いのせいか目を潤ませ、三山は加藤を見つめた。

「信じる?」

「警察という組織をな。勿論、丸っきり全部って訳じゃねえよ。根っこの部分…警察官として唯一無二の存在意義。何だと思う?なんて聞くと、キャリアのあんたをバカにしてるように思われちまうか」

「大丈夫ですよ。荻窪署で加藤さんに散々鍛えられましたから。で、唯一無二の存在意義って?」

「どんなに難事件であろうとも、最後には犯人を捕まえ事件の真相を解明する……一般市民はその事から法治国家としての安心感を得る訳だし、悪事を働こうとしている人間には抑止力になるんだ」

「もう一つ言葉を付け加えるのならば、正しく解決する、でしょ」

「へへへ……飲み過ぎたせいか、あんたに講釈垂れちまった」

「ねえ、本当は加藤さんの方が辞めたいって、思っているんじゃない?」

「ん?」

 言われた加藤は、少し温くなったジョッキの中身を一気に飲み干し、

「かもな」

 と、自嘲気味に笑った。


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