1970年の亡霊
「人様に能書きこいている本人が揺れ動いてんだから、説得力の欠片もねえよな……。現場であろうとデスクであろうと、捜査員たる者、全て同じ心で取り組むべし、何て言われたって、ずっと現場を這いずり回って来た人間から、その現場を取ってしまったら、残るもんは燃えカスだけよ。あんたもそんな感じなんだろうが、キャリア組だからまだこの先幾らでも新しい道が開ける。その点、現場しか知らん人間の末路は、抜け殻になるしかねえのかもな」

「加藤さん、今の署で何かあったの?」

「何も無い……何も無いから、燻っている」

 加藤が館山署から君津署へ、首無し死体事件の応援として出向している事は、三山も知っていた。

 が、彼が単なる事務作業ばかりさせられているとは知らない。

「全部……」

「何だ?」

「何でも無い」

 全て私のせいだ……

 という言葉を三山は飲み込んだ。

 二年前、彼を佐多事件捜査に巻き込んだのは自分だ。

 私から声を掛けなければ、加藤はそのまま本庁の機動捜査隊で実績を認められていた筈だ。

 事実、彼はやり手の捜査員として将来を期待されていたのだ。

「さて、千葉の田舎まで帰らなきゃなんねえから、ぼちぼちお開きとすっか」

 そう言って立ち上がった加藤に、

「家に帰れば最愛の奥様と、可愛いお子さんが待ってますものね」

 と言った三山の言葉に、以前ならば相好を崩して笑顔を見せた加藤が、この夜は寂しく笑うだけだった。




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