1970年の亡霊
 署に着いたのは昼近くになってからで、早速、捜査本部が設置された刑事部屋へ顔を出した。

「君が応援か?館山じゃ他に遣す人間は居なかったのかね」

 現場指揮の為に県警本部から出向して来ていた田之上捜査一課長が、思い切り皮肉を込めて言った。

「割り振りは、係長の鈴木君に任せてあるから、彼の指示を待て。くれぐれも言って置くが、絶対にでしゃばるんじゃないぞ。少しでも妙な行動を取ったら、今度は駐在所勤務だからな」

「はあ……」

 田之上課長が言った意味は直ぐに判った。

 この春結審した、佐多事件を言っているのだと。

 警察官でありながら、被告人の弁護に回り、容疑者を無罪にした刑事。

 以来、加藤は警察組織の中で異端児扱いされ、本庁勤務からも外されて、館山署に異動となったのだ。左遷と言ってもいい。

 一年前に取った加藤の行動を快く思わない刑事達が居る事を加藤自身気付いていた。

 今居る館山署でも、上司達はまるで腫れ物を扱うような接し方だ。

 今回の応援も、考えてみれば厄介払いのつもりなのかも知れない。

 何だよ、せっかくチョーバの応援なのに、雑用係で茶を濁して終わりか?

 田之上課長の口振りからそう察せられた。

 事実、加藤が割り当てられた職務は、捜査員達が集めた資料や証拠を整理する事務係であった。


*作者註=佐多事件……自作『迷宮の魂』参照(2010/10現在期間限定で公開中)現在は非公開。




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