1970年の亡霊
「川合さん、お久し振り」

「課長もお変わりなくて、と言いたいところですが、大変だったようですね」

「私よりも、災難だったのは三枝君よ」

「でも、見たところ大した事なさそうですね」

「唸って痛々しい姿でいた方が同情されたのかな。せっかく花を持って来て貰って申し訳無いけど、明日には退院出来るみたいだ」

「なあんだ、暫くは職場が静かになるかと思ったのに。それより、課長に例の件話した?」

「まだ。メールで相談したいって送ったけど、レス、貰ってない」

 三枝の皮肉っぽい言い方に、三山は少し後ろめたさを感じた。

「丁度いいじゃない。今ここで話したら」

「ついでって言い方は変だけど、川合さんも知っている内容なら、今聞いてもいいわよ」

 メールの返信をしなかった事による後ろめたさもあって、思わず川合の言葉に乗ってしまった。

「きっかけは、川合さんなんです……」

 三枝は、川合俊子が見付けた怪しげなサイトの話をした。

「……で、彼女が見付けたサイトのアクセスコードなんですが」

 丁度そこで夕方の検温に看護師が病室に入って来た。

 突然、三人が三人とも押し黙ってしまったものだから、看護師は訝しんだ。

 検温を終え看護師が出て行くと、

「続きは私が話します」

 と、それまで無言でいた川合俊子が声を潜めながら話し始めた。


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