1970年の亡霊
 オカダユキノリは、実際に的へ向けてRPG(ロケットランチャーの略称)を発射させるのは初めてであった。

 自衛隊での訓練では、何度も模擬戦闘で廃車された戦車に向けて至近距離から撃った事はあった。

 初めての実践という不安は微塵も無かった。

 寧ろ、崇高な使命感を達成出来る喜びに気持ちは高揚していた。

 陸自では、カールグスタフと呼ばれた携行用対戦車砲を扱っていたが、今手にしているM72と操作はほぼ一緒だから、手馴れた手付きで射程距離に近付くのを待っていた。

 相手は巨体だ。

 外しようが無い。

 至近距離から船側に命中させれば、最大300ミリの厚さを貫通させられる。

 戦闘用の車両よりも薄い鉄に覆われたタンカーなど、薄紙を破くように貫通する筈だ。

 たった一発。

 この一発が、積んでいる原油に引火させる事が出来れば、相当なダメージになる。

 爆発し沈んでしまう事は無いだろうし、頑丈なエンジンルームには影響は無いだろうが、別段沈める事が目的では無い。

 日本国籍のタンカーが攻撃されたという事実が伝われば、それで目的が達せられるのだ。

 M72の最大射程距離は約千メートル。

 だが、より効力を発揮させる為に、ゲリラ船は百メートル足らずの距離まで近付いた。

「ユキノリ、シュート!」

 リーダーのモハメドの声を耳にした時には、既に引き金を引いていた。

 眩いばかりの閃光と耳を聾する発射音がし、白煙を糸のように伸ばしながら、ロケット弾はタンカーの横っ腹へ向かって行った。

 タンカーの操船室では、その光景を誰もが信じられないという表情で見ているしかなかった……。




< 7 / 368 >

この作品をシェア

pagetop