1970年の亡霊
 非番だった加藤は、一人寂しく官舎でインスタントラーメンを作っていた。

 家具らしい家具もない殺風景な部屋。

 妻とは、本庁から館山署へ転勤となった昨年秋から別居している。

 一人で家事をする事に慣れては来たが、三度の食事はやはり面倒だ。大概、コンビニの弁当で済ませたりする。たまにこうして自炊をする事もあるが、せいぜい作ってもインスタントラーメン程度だ。

 蒸し暑い熱帯夜は、ビールで晩酌と行きたいところだが、この日の非番は自宅待機班に当たっていたので、アルコールは諦めるより仕方なかった。

 出来上がったラーメンを鍋のままテーブルへ置き、傍らのノートを開いた。

 鍋の中に顔を突っ込むようにしてラーメンを啜る。

 食べながら見ているノートは、加藤なりに首無し死体事件について纏めた記録であった。

 直接、地取りや鑑取りをした訳ではないから、内容的にはプロファイリング的なものであった。

 本部の連中は何かを見落としている……

 加藤が一番それを感じていた部分は、被害者の検死記録についてであった。

 被害者の身許特定よりも、死体発見現場周辺で目撃されたという不審車両にばかり目が行き過ぎている。

 加藤は当初からそう思っていた。

 解剖所見記録のページを繰り返し読んだ。

 昔から、死体は雄弁って言うじゃねえか……

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