1970年の亡霊
 その夜は、台風の影響で凄まじい雨だった。

 下水から溢れた雨水が道路一面を覆い、川のようになっていた。

 一台の軽乗用車がエンストを起こし、運転手がずぶ濡れになりながら押している。

「これも地球温暖化の影響なんでしょうか。ずっと猛暑続きだったのに、このゲリラ豪雨ですもんねえ」

「運転手さん、この先で停めて下さい」

 若い女性客に言われ、タクシーの運転手はウインカーを出し、車を左側に寄せた。

 料金はクレジットカードで支払われ、それが記録として残り、女性客の最後の足取りとなった。

 運転手は、後にこの時の事を警察での聴取で語っているが、特に事件と結び付くような点は見られなかった。

 台風で水嵩の増した用水路に過って落ち、溺死した事故。

 この一両日中で、同様の事故が関東だけでも数件あった。

 当初、発見された遺体の所持品が全て流されてしまったのか、身許確認に時間が掛かった。

 周辺の聴き込みから、当日駅からこの女性を乗せたタクシーが判り、運転手の証言と状況が一致。支払いの際に残ったクレジットカードのサインから、女性の身許が判明した。

 三山が元部下である川合俊子の事故死を知らされたのは、台風が去った翌日の事であった。

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