1970年の亡霊
 川合俊子が流された用水路沿いを、三枝は歩いていた。

 台風が去ってからまだ日が浅いせいか、用水路の中は、あちこちから流れて来たゴミで覆われていた。

 彼女の遺体が発見された場所には、近所の住人が手向けたのだろうか、花と線香が置かれていた。

 三枝は自分が買って来た花束を置き、線香に火を点けて手を合わせた。

 事故現場から百メートル足らずの所に、川合俊子のアパートがあった。

 用水路沿いに真っ直ぐ歩いた先に建つそのアパートは、どう見ても三十年は築年数が経っていそうだった。

 日頃、三枝が彼女に抱いていたイメージから、瀟洒な高級マンションを想像していたので、何と無く意外な感じを受けた。

 しかし、よくよく思い返してみれば、彼女の事を特別知っていた訳ではなかった。

 互いに民間から採用された特別捜査官という事もあり、親しく付き合って来てはいたが、三枝がそう思っていただけで、実際には彼女の私生活の事など丸っきり知らなかったし、特に興味を持つ事も無かったのだ。

 周囲の洒落たマンションや一戸建ての中で、そのアパートだけが取り残されたかのように古ぼけていた。

 暫く道端で佇みながら、自分は何故こんな所まで来てしまったのだろうと、今更ながらに思っていた。


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