1970年の亡霊
 あいつは何者だ?

 単なる物取り…空き巣の類いとは、明らかに違う……

 男の姿が部屋の中に消えた。

 三枝は出来るだけ音を立てずにアパートの階段を昇り、川合俊子の部屋へ近付いた。

 扉の前で身体を屈め、そっと耳を当てて中の様子を探った。

 微かに音が伝わって来た。

 少し腰を伸ばし、扉横の台所の窓に手を掛け、開けてみようとした。

 鍵が掛かっているようで、びくとも動かない。

 しかし、ガラス越しに人影が動くのが見えた。その動きは、何かを物色しているようだった。

 意を決し、ドアノブに手を掛けた。

 ゆっくりと回してみる。

 鍵は掛けられていなかった。

 カチャリと音がした。

 何をどうしようとか、まるで考えていなかった。

 全てが無意識のうちに出た行動であった。

「警察だ!」

 そう叫びながら力一杯にドアを開け、中に飛び込んだ。

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