1970年の亡霊
ゴラン高原
 岩だらけの山。

 僅かな平地は無味乾燥な砂漠。

 所々に点在する緑のブッシュ。

 地平線の向こうで、微かだが砂煙が見えた。

 予定通りだ。

 距離からすれば、後二時間もすれば射程距離に入る。

 ムジャールは、傍らで身構えている男に目で合図を送った。

 察した男は岩場の陰から移動し、指示されていた位置へと動いた。

 男は背中に担いでいたロケットランチャーを手にし、何時でも撃てるように安全装置を外した。

 まだ射程外だ。

 高まる気持ちを静める為に煙草を取り出した。

 火を点けようとしたら、

「ヨシオ、ノースモーキング」

 とムジャールが言った。

 周囲に何も遮る物が無い所では、例え数十キロ離れていても、僅かな火や煙でこちらの所在が判ってしまう。

 男は、自分の無知を恥じた。

「ソーリー」

 男は煙草をポケットに戻し、目を閉じた。


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