1970年の亡霊
「ウッ!?」

 締め上げていた腕が解けた。

 左腕を押さえて男が蹲った。

「……カハァーッ」

 締め上げられていた気道がやっと広がり、なんとか息を吸い込めた。

 涙で滲んだ視界の先に、凶悪な面相で睨みつける男の姿があった。

 避ける間も無く蹴りが三枝のテンプルを襲った。

 首ごと根こそぎ持って行かれるかと思う程の衝撃。

 蹴り倒され、再び転げ回る三枝。

 男の身体が舞った。

 瞬間、三枝は身体を捻りながら、包丁の刃先を立てた。

 ズシンと衝撃が両手から全身に伝わり、男の体重がゆっくりと三枝に圧し掛かって来た。

 深々と突き刺さった包丁は、胸骨の間から心臓を貫いた。

 男は、一瞬だけ呻いたが、そのまま三枝に覆い被さるように息絶えた。

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