1970年の亡霊
 桜田門の交差点で信号待ちしていた三山のケータイが震えた。

 丁度、定時で退庁した時で、出てみると三枝からだった。

「どうしたの?」

(人を……人を殺しちゃいました)

 消え入りそうな声が、何度も三山の耳の中で木霊した。

「今、何処なの?」

(川合さんの……)

「川合さん?川合さんの家って事?」

(彼女の部屋で……男を、揉み合って……殺しちゃったんす……)

「今、彼女の部屋に居るって事ね?他に連絡は?まだ?ならば、私が行くまでそこを動かないで。絶対よ。変な事考えたら駄目。いい?判った?」

 切れ切れに聞こえて来た内容からは、はっきりとした事が判らない。気が動転している今、電話で事の顛末を聞こうしても無理だ。

 三山は電話を切らず、終始話し掛けた。

 霞ヶ関方向から来たタクシーを止め、それに乗り込んだ。

 血の海に沈んだ死体の傍で、茫然自失となった三枝の姿を見たのは、それから三十分後の事であった。

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