1970年の亡霊
 血の臭いが充満していた。

 部屋に入った三山が先ずした事は、男の身許の確認だった。

「知り合いじゃなさそうね」

 虚ろな目をじっと床に落とす三枝から、事のあらましを聞き出すのは骨が折れた。

 三枝がぽつりぽつりと語っている間も、三山は死体から所持品を探し出していた。

 持っていたのは財布、免許証、それと一本のメモリースティックだった。

 メモリースティックを手にしながら、三山は部屋の中を見渡した。

 ベッド横のサイドテーブルにノートパソコンがあった。

 川合俊子のものだろう。部屋の中は、生前の時のままになっていた。何といっても、葬儀が終わったばかりなのだ。

 ノートパソコンにメモリースティックを差込、データを呼び出した。

 幸い、セキュリティロックはされていなかった。

 液晶画面に映し出されたものは、数日前に川合俊子から見せられたあの文面があった。

 どうしてこの男がこれを?

 データページをクリックして行くと、何人もの人物の名前が書かれてあり、よく見るとその名前は全て韓国名だった。

 三山はもう一度男の所持品を調べた。

 財布の中を見てみると、現金が三万程とキャッシュカード、それにIDカードが入っていた。

 そのIDカードを見た時、三山は何だかぞっとするような寒気を憶えた。


< 82 / 368 >

この作品をシェア

pagetop