1970年の亡霊
 男の所持していたIDカードには、所属する自衛隊の部隊名が記されてあった。

「陸上自衛隊習志野空挺団、増淵修司…1988年生まれ、という事はまだ二十二歳?」

 物言わぬ死体と化した男の顔からは、年齢相応の若さを見出せなかった。

「自衛官だって判っていたの?」

 力無く首を振る三枝。

 まだ自分が仕出かしてしまった事の衝撃から抜け出せていないようだ。

 仕方無い事だろう。

 通常の神経を持っている者なら、誰だって人を殺めてしまえば、三枝のようになるのが当然だ。

 しかし、何故現職の自衛官が?

 偶然、留守宅に忍び込んだ空き巣というふうには考え難い。

 三山は今一度、メモリースティックに収められていたデータを隈なく調べてみた。

 三枝に殺された若い自衛官は、事故死した川合俊子のメモリースティックを手に入れようとして、この部屋へ侵入したのだ。

 最初からそれが目的だから、男は他に物色もせずメモリースティックを持っていたのであろう。

 ならば、何故このメモリースティックが必要だったのであろうか。

 三山も以前に見せられた文面の内容だけなら、窃盗という犯罪を犯してまで手に入れる代物だとは言い難い気がする。

 他に何か重大な情報が隠されていると考えるのが妥当だろう。

 ダウンロードされたオークションサイトのホームページ以外に、川合俊子が個人的に調べたと思われる内容が、ランダムに書き込まれてあった。


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