1970年の亡霊
 君津署の仮眠室でまんじりともせずに居た加藤へ、三山銃撃される!の報が届いたのは、東の空が幾分明るくなり始めた頃であった。

 知らせたのは、三山の頼みで川合俊子のアパートへ向わせた本庁の後輩からであった。

「命は!?生きてんだろうな!?」

(詳しい事は判りません。とにかく、こっちは所轄からやいのやいのって言われるし、てんやわんやの大騒ぎなんですよ。しかも、先輩に言われて向った現場には、ホトケの姿なんてないし)

「どういう事だ?」

(室内は争った形跡はあったんですよ。血痕を拭き取った跡とかも。但し、凶器らしき物は無し。ほんとにホトケだったんですか?生き返って自分の家に帰ったとか)

「てめえ、こんな時に笑えねえ冗談言ってんじゃねえ!」

 死体が消えた……。

 いったいどういう事なんだ?

 加藤が三山から聞いた話は、元部下の三枝という男が、数日前に事故死した別な元部下の自宅に忍び込もうとした不審者を捕まえようとして、過って殺してしまった……。

 と、ここまでの内容しか聞かされていなかった。

 そういえば、現場を離れると言っていた際に、彼女は共犯者が他に居て私達を見張っているかも知れないとも言っていた。

 そして、消えた死体の男は現職の自衛官だとも。

 加藤は、現場に駆け付ける事の出来ない今の状況を呪った。

 せめて、三山の安否だけでも早く知りたいと願う加藤だった。

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