1970年の亡霊
 一時間後、予定通りだったという諦めの表情を見せながら、荒木茂男は役所を後にした。

 役所の横にあった公園のベンチに腰を降ろそうとすると、スーツ姿の中年男性が近付いて来た。

「少しお話させて頂けますか?」

 役所の人間とも違う別な意味での硬さをその男から感じた。

「何だね?」

「簡単な仕事なんですが、やって頂ける方を探しています」

「……」

「怪しい仕事ではありませんから安心して下さい。それにきつい肉体労働でもありませんから」

「幾らになる?」

 中年男は黙って片手を開いた。

「五千円か。悪くないな」

「全額日払いです。但し、五千円ではありません。五万円です」

「……!?」

「本当に心配は要りませんよ。何でしたらこれから行く事務所で食事をしながら話だけでも聞きませんか?その上で決めて頂いて結構です。お断りになられても食事はお出し致しますから」

 人の好さそうな笑顔を見せる男に従い、荒木茂男は後を着いて行った。


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