1970年の亡霊
 池谷は必ず加藤が話に乗って来ると思っていた。

 屋上には、都合よく誰も居なかった。

 三山警視が銃撃された事件は、全てが謎だらけだった。

 銃撃される直前、三山ともう一人の捜査官は、数日前のゲリラ豪雨で事故死した川合俊子のアパートへ立ち寄っていた。

 この川合俊子も警視庁の特別捜査官で、三山警視の元部下であった。

 何の為に?

 そこが第一の謎であった。

 誰かからの指示で、本庁の機捜がそのアパートへ駆け付けてみると、室内は物色されていて、更には大量の血痕が発見された。

 真相を知っているのは、ICUで未だに意識不明状態の三山だけ。

 銃撃されたもう一人の捜査官、三枝は三山の楯となって全身に銃弾を浴び、即死している。

 急遽捜査本部が置かれた葛西東署にしても、現職の捜査官が銃撃された事の重大さから、全捜査員を動員している。だが、事件そのものの全体像がまるで見えて来ない事で、早くも苛立ちを隠せないでいた。

 池谷は、自分が掴んだ幾つかの情報から、加藤がこの事件に一枚絡んでいると確信していた。

 絶対、あの刑事は来る……

 池谷はポケットからセブンスターを取り出し、口に咥えた。



 
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