海風~駆け抜けた青春~
線香花火
~陽Side~
-プルルルル
着信音が部屋に響き渡る。
"岸部 愛梨"[キシベ アイリ]と表示された画面を見て、溜め息混じりに通話ボタンを押す。
「…何回掛けてきても応えは変わらないよ。」
「でも…あのっ、みんな待ってるから…」
携帯の向こうから聞こえる声は少し震えている。
「だから、何度も言わせないで。俺はもう泳がない。部活にも戻る気ない。」
「そんなこと言わないで。その…あれは向井君が悪いんじゃないからっ。」
「…それが理由じゃないから。
他に用がないなら切るよ。」
「あっ…待ってるから!」
俺はそのまま携帯を閉じた。
ふと、窓の外を見る。
向かいの家の玄関が勢いよく開く。
夜はまだ長い。
~陽Side End~