―you―

 友人は残念そうに帰り、私も似たような心持ちで劇場を出た。火曜の夜、なんとも手持ち無沙汰な時間が出来た。コンビニに立ち寄り財布を見る。三人が二人ずついた。通りの向かいにドーナツ屋がある。

 私は千円分の君の好きなドーナツと、ミルクティーとコーヒーを持って君の部屋に向かった。私は私の中に出来たもやもやとしたものに耐え切れなかった。君の奥深い表情の理由を知りたかった。何より、君に会いたかった。
電話を掛ける。プププ…
「お客様のお掛けになった電話は、電源が入っていな」ブツ。
 何度も繰り返すうちに、君の部屋の近くまで来た。まだ電話は繋がらない。エレベーターに乗り、降りる。取り敢えず君の部屋へ。
 意外にも、部屋の明かりは点いていた。インターホンを押す。ピン、ポーン。
 返事はない。ややあって、ポケットの携帯電話が鳴った。味気ない電子音。
「…優」
「千尋さん、どうしたんですか?何でうちに」
 心なしか、いつもより声が細い。
「ドーナツ買ってきたんだ」
「え?」
「オールドファッション」
「はい」
「食べないか?一緒に」
カチャン、とロックが外れ、ドアが開いた。化粧を落とした君が迎える。更に痩せたか?
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