―you―
あなたの手は大きくて、強くて、温かかった。それだけは覚えている。
劇団で一人者が集まってワイワイやろうと声を掛けられたけど、断った。とてもそんな気分にはなれない。実家には劇団が忙しいから、と言って帰らなかった。俺は酷い子供だ。
テレビは点いている。去年の半ばから売れ出した芸人が、どの番組にも引っ張りダコだ。その変な笑い方が嫌いだ。大衆に迎合できない。俺は嫌なやつだ。
そしてあなたから連絡が途切れて一週間。その間に年が変わった。俺はいつからあなたを好きになったんだろう。あなたがいないと、オールドファッションだって喉を通らない。俺は馬鹿だ。
ベッドに寝転がり、ファイの子守歌を歌う。
目を閉じて
眠りなさい
枕の風を
越えるのよ
目を閉じて
眠りなさい
布団の波を
越えるのよ
目を閉じて
眠りなさい
夢の中を
泳ぐのよ
「千尋さん」