―you―

「テイクアウトで」
 君はオールドファッションを二箱持って店を出て行く。私はコーヒーと君のミルクティーを持って後を追う。君は歩くのが速い。蛍光灯が寂しく光る小さな公園、君はベンチに座って既に食べ始めていた。
「それ全部食べるの?」
「一個ぐらいあげますよ」
 その細い体に残り全部が入るとは思えない。
「大食なんですよ、これでも。食べるのは好きで、」
 言葉が詰まった。どうした?と私は聞く。
「思うんですけど」
「うん」
 私は君から渡されたドーナツを口に運ぶ。
「何でテレビドラマや映画に出ている女優は細い人が多いんでしょう」
「君が言えるセリフ?」
「何か、おかしいですよね」
「なにが?」
「飽食の時代に、あんな細い人たちがちやほやされて」
「それはある」
「ダイエット製品がいっぱい出回って、世の中矛盾しています」
「確かに」
 私は自分の腹回りの事を思う。最近太った。
「摂取しなきゃ痩せるんですよ」
「極論だね」
 ごくん、とミルクティーを飲んで、君は私の方を見た。
「見て下さい」
 が、と口を開けて、指を差す。甘ったるい匂い。
 暗くて良く解らないが、指の先に不自然に膨らんだ箇所がある。
「吐きダコ…?」
 再びドーナツに伸ばした君の手を私は思わず掴んだ。
「それも吐く…」
「もうしませんよ、そんなもったいないこと」
 乾いた声で笑った。
「今は、ちゃんと栄養もらって、出すんです」
「…君ね」
「俺しか食べてないからいいでしょ、はは」
 君はどうも私の届かない所にいる。
 私は君の事をもっと知りたい。
 君の了見を、君の過去を、君の未来を。この手に掴みたい。君に追いつきたい。
「あ、丁度良い」
 そう言って君はバッグの中を探った。
「これ、約束の」
 はい、と渡されたチケット。
「ファイって役です」
「へえ…有り難う。貰っておく」
 君はまた走り出すんだ。
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