―you―
嘘は習慣だ。
私は、煙草は嫌い、賭け事は興味がない、酒は下戸。でも嘘や冗談は滑らかに口から出る。
優、私は君との関係をどうしたらいいんだ。もう嘘ではごまかせない。答えを出さなければいけないんだ。
「千尋?」
奈緒が椅子に座る。
「劇場の方は、俺が考えておくよ。どの週の金曜日が病院かはわからないんだろ?」
「ねぇ、千尋」
私は奈緒の真面目な眼差しに驚いた。
「仕事大変なの?最近、上の空な時が多いじゃない?」
「そうか?」
奈緒は気付いているんだろうか。
「何かあったの?」
気付いているんだろうか。
「ねぇ」
気付いている、んだろうか。
「奈緒」
上手く出ろよ、嘘。
「奈緒の心配することじゃない。少しな、我が儘な先方がいるんだ。良い相手なんだけどさ。ここからは企業秘密。ごめん、家に持ち込まないようにはしていたんだけど」
どうだ。
「そっか」
奈緒は柔らかく笑った。私はその笑顔を見て、ふと気付いた。
「奈緒、化粧が濃くないか?」
ふふ、と奈緒は意味ありげな声を立てる。
「やっと気付いたのね。よっぽど大変な仕事なんだ」
「てっきり、浮気してるのかと思ったから」
限界、なんだろうか。