―you―

「…失恋でもしたのか?」
「へ!?」
「そうか。だから荒れてたんだな」
「ちょっと勝手に話を進めないで下さいよ」
「まあ飲め飲め」
「…寺田さんの奢りですよね」
 寺田さんはまあまあ、と私のコップにビールを注ぐ。
「で、誰だ?相手は」
「失恋したならいいじゃないですか、関係ないでしょう」
「それはこっちの台詞だ。ちゃんとケリつけもらわないと、仕事に響くだろ」
 私はビールを一口飲んだ。口の中に苦みだけが残る。
「寂しいなら、俺フリーだからな」
「…何言ってんですか?」
「俺、割とお前のこと好きだよ」
 酔っ払いだ。
「今、俺のこと酔っ払いだと思ったろ」
「はい」
 け、とか言いながら、寺田さんは肉じゃがを突いた。さすが売り物なだけに味はいいけど、奈緒さんの肉じゃがの方が優しい味だと思う。

「寺田さん」
「ん?」
「何で俺、主役貰ったんですかね」
「…人称、戻ってる」
「あ」
 意識していたのに。
「ファイが当たったからじゃないか?モーリスも結構ハマってたけど、女もできる、って声かなり上がってた。あと、リエちゃんが寿退団したからな」
「だからって俺が主役…」
「何だよ、お前らしくねぇなぁ」
 俺…私は席を立った。もう帰ろう。
「どうした」
「すみません、手洗いに」



 ビールも肉じゃがも、全部流れていく。水洗トイレって有り難い。
「はぁ」
 トイレを出て、そのまま店の外に行く。ペットボトルの水を一口。背中を通る夜の空気が頭をすっきりさせる。お腹もすっきり、頭もすっきり。これであなたとの関係もすっきりどうにかなれば良いのに。
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