―you―
「許さない」
「…」
「俺は言っただろう?あんたに重石を持ってもらいたいって。優に会うってことは、それを軽くしようってことだ。そんなこと許さない。俺の優が、あんたに会うことなんてあってたまるか」
「“俺の優”?」
「そうだよ」
「そんなのエゴだ」
「エゴ。あんたの思いの方がエゴだよ。あんたが優に出来ることは何もない。それだけ忘れるな」

 世の中に渦巻いている思いの、一体何割がエゴではないと言えるのだろう。一見して解る我が儘や、裏に隠れた自己防衛の為の思い。人間は皆、エゴイストだ。神のお告げを聞いた聖職者も、名誉なんてあからさまな物を求めなくても、自分の心を満たしたくて動き出す。
 腹が空いたら貪り食えばいい。腹が立ったら怒鳴ればいい。全て己の心の欲するままに。

 私が君に出来ることは何もない。
 君はどうも私の届かない所にいる。

「優…」



 片時も忘れなかった、という言葉は嘘だ。ずっと一つの事を考え続けるなんて、出来る筈がない。でも、何かを完全に忘れることも出来ないんだ。忙しすぎる日々の中で、すうっとその手は伸びて自分を襲う。そうやっていつも過去に見張られている。
 歩き出そうとして片足を上げるとき、その足首を掴む。振り払っても、また掴む。掴めないように走るしかない。見ないように見ないように。止まらないで止まらないで。
 止まらないで、走り続ける。

Fin.
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