いちごのひみつ
「明日から高校に通って貰うから」


コーヒーをすすった母は開口一番


とんでもないことを言い出した。


「ちょっ…お母さん!! 何言ってるの!?」


「ちょうど入学の時期だし、学校


側も特別に試験の機会を設けて


くれるそうよ」


「い、いや、そういうことじゃなくて……」


助けを求めようと師匠を探すが


逃げやがったんだか姿が見えない。


「お母さん、わたしは画家になり


たくて高校行かずに弟子入りしたのよ!


それを今更……」


「あなた、自分で言った約束を


覚えていないのね」


「え……?」


母はもう一度コーヒーをすすると


小さく溜め息をついた。


「そりゃ奏さんは1枚の絵に何十万って値の付く


たいそうな画家だけれど


あなたはコンクールに入選もしないじゃない


5年経っても成果がなかったら高校に行く


そう言って家を飛び出したのはあなたなのよ」


「うっ……」


思い出した。そうだった。


でもあの時は勢いでというか……


実際画家への道は5年で何とかなるもんじゃ


無いっていうか……


「解ったわね。


通うのは山野のおじいちゃんが理事長の


清陽(せいよう)高校だから」


その学校名に、わたしは思わず立ち上がる。


「お、お母さんっ、そこって制服が……!」


「山野のおじいちゃんが準備してくれたから


何も問題ないわよ」


「問題なくない!!」


不思議そうな顔をする母を目の前に


自分の顔がみるみる熱くなっていくのが解る。


「20歳で制服が着れるかぁああ!!」


山野いちご 20歳


低身長で童顔だけれど


20歳で制服を着ることになるとは


思いませんでした…。
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