Impression~心の声
人の心は目では見えない。時折私が思う感情を彼に読み取られたような気持ちになった。その瞬間、私は彼の心情に強い興味を抱いた。
香織 「初めてガラスを作ったひとってどんな感じだったのかな?」
いさむ 「そうだね。きっと凄く嬉しかったんじゃないかな。」
香織 「いさむくんも、嬉しいと感じた?」
いさむ「もちろん、感じたよ。だから僕も続けたいって思ったんだ。」
香織 「続ける?」
いさむ「うん。続けて行きたいんだ。」
 その時の私は続けるということの本当の意味を知まだ知らずにいた。
いさむ「伝統工芸ってわかるかな?」
香織 「なんとなく。一定の地域って言うか、ほら、お土産なんかである感じで、その土地の文化だったり、なんていえばいいんだろう。名産物みたいな物かなって思うな。ごめんそんな感じでいいのかな?」
いさむ「うん。あってるよ。その伝統工芸ともう一つ、伝統的工芸品って言う言葉があるんだ。」
香織 「伝統的工芸品?」
いさむ「そう、伝統的って言うのはね、およそ百年以上の継続を意味していているんだ。」
香織 「百年も?」
いさむ「そうさ、とっても長いだろ。」
 今という時間の本当の姿さえ知らない私にとって、百年という時間はあまりにも大きいものに感じた。私が小さく頷くと、いさむはまた話を再会した。
いさむ「工芸品は、百年以上もの長い時間受け継がれて、多くの作り手の試行錯誤を経て初めて確立する物なんだ。自分ひとりでは到底叶わないスケールになると思うけど。それを受け継ぐ誰もが、百年という時の重みを感じてゆく。そうやって人から人へと大切に受け継がれて欲しいと僕は思うんだ。僕の存在なんてその大きな歴史からしたら、ちっぽけなものでしかないはずだけど。だけど少なくとも僕はそう願っている。」
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