Impression~心の声
彼は少し笑ったようだった。
いさむ「本当に君にも本物を見せてあげたいよ。」
 もちろん私も見たいと思った。そしてそのとき私は思いついた。
香織 「そうだ、いさむ君カメラ持ってないの?顔を見て話したい。」
いさむ「あ、、あえてカメラは貰わなかったんだ、友達に付き返した。」
香織 「そうなんだ、残念、、。でもどうして?恥ずかしいから?」
いさむ「いや、、僕の顔、、。」
彼の言葉が、そこで途切れた、、。〝僕はカッコ悪いから、、″そんな謙遜の言葉が私の胸をかすめた。
香織 「いいのに、、そんないろんなこと気にしたりしなくたって、、。」
 私は自然に微笑んだ。
いさむ「今日始めて笑ってくれたね。」
 言われるまでそんなことに気付きもしなかった。私なんかこんな仕事ですらプロにはなりきれない。
香織 「ポイントなくなっちゃうね。」
 オペレーターの画面からは、相手の残りポイントを確認することが出来る。残り時間はあと3分。
いさむ「本当だ、自分の話ばっかりでごめんね。三十分があっという間だったよ。」
 私もそう感じていた。そして彼とまた話がしたいと、どこかで感じていた。
いさむ「また、会いに来てもいいかな?」
 その言葉がうれしかった。
香織 「もちろん、是非会いに来て。私待ってるから。」
いさむ「ありがとう、じゃあまた、、。」
香織 「うん。」
 私は頷いてカメラに向かい手を振った。
《いさむさんがログアウトしました。》
 そのログを最後に画面が終了した。
 私はそのままパソコンの電源を落とした。
 朝はいつも通りにやってきた。だけど朝になって変わっていることなんて、この世界には一つも存在しなかった。
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