Impression~心の声
 否定と肯定の繰り返し、その狭間に身を沈めることは、いつしか私の中で当たり前のことになっていた。
私の場合〝自分しだい〟そんな言葉だけで片付けられる物ではないって解っていたはずなのに。私がいたのは常識を逸脱した世界だったのだから。
 仕事を探すのに本屋に立ち寄った。〝求人雑誌〟その類の雑誌を手にしたのは始めてだった。 もう28だって言うのに私は今までまともな仕事をしたことが無かった。無かったわけでは無い。ただ特殊な仕事だっただけ。今は思い出したくも無い過去。
 求人コーナーの隣には立ち読みで傷んだ週刊誌が並んでいた。
また今週も話題の有名人が、私生活をfocusされ、祭り上げられている。先週もそのまた先週も、キャプションの名前と人が変わるだけで、中身なんてどれも同じようなものなのに。   
人の不幸は蜜の味なんてことわざあるけれど、不幸を味わっている人の気持ちは実際不幸を味わってみないと解らない。当たり前のことなのに。私はそこに直接ぶつかるまで、本当の意味を理解できないでいた。
私が芸能界に足を踏み入れたのは16歳の夏だった。
スカウトが切欠だった。運がよかっただけ、その言葉だけで整理する人も少なくは無いと思う。だけど私はそれを否定はしなかった。実際そうだっただけなのかも知れない。今となってはあの時自分の選んだことの一つ一つが全て過ちのようにさえ感じた。
一度知られた顔と名前を世間が忘れることは無い・・・。
涙が頬をつたった。
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