Impression~心の声
私は少し微笑んだ。
「そうだね、美鈴ちゃんは感性が豊かなんだと思うよ。ちなみにねアールヌーボー時代には、アルジィ・ルソーやアメリック・ワルター、フランソワ・デコルシュモンらの作家によって作り上げられた名高いガラス工芸の高級秘術品もあるんだよ。」
 私は再び笑ってしまった。
「デコルシェ・・・フランス人の名前かなぁ?聞きなれないせいかなんだか名前きいて面白くなっちゃった。ごめんね。」
 勇も一緒に笑った。
「確かにそうだね。」
「勇君は本当にガラスの歴史に詳しいね。」
「好きだから、それを実際見たいと思えば見ないと気がすまないし、やらないと気がすまなかっただけなんだ。」
 そこで、勇の笑顔が消えた。
「そのせいでした失敗もあるけどね。」
 失敗?もしかして、この怪我のこと?
 私は言葉に困った。
「よし、今日の作業はこの辺で終わりにしよう。せっかく美鈴ちゃんが来てくれてるんだもんね。」
 話が変わったことにほっとしてしまった。本当は解るのに。失敗したことの辛さ。この顔が辛いとか、私の考えなんて単なるわがままなのかも知れない、勇の運命に比べたら。もし私と勇の状況が入れ替わったとしたら、私は生きてゆけるのだろうか。ほんの一瞬の出来事で、自分の全てが醜い物になってしまったのな、。
 勇は作業場を手早く片付け、私の背中を押し、ガラスたちの待つ部屋にエスコートした。
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