Impression~心の声
成功の影に潜む失敗はいかにも〝そうあるべき〟という顔をして目には見えない壁の裏側にひっそりとたたずんでいた。
失敗、それがたとえ思いがけずおこった悪い出来事だとしても、理性による思慮、選択を決心させる猶予が与えられない一瞬だったとしても。どんなに小さな物ですら、それを侵せば良識を逸脱した人間としてレッテルを貼られてしまう。
名前と顔が売れること、多くの人から人気を得ること、そのことへの代償はあまりにも大きいものだった。
恋人が出来たのは、そんな私にとって言わば絶頂期といっていい時期に重なっていたのかもしれない。絶頂。何もかもがうまく行き過ぎていたあの頃は、落ち目が来ることの想像さえ持っていなかった。そしてあの時、私は始めて人を好きになったと思っていた。だから彼のために何でも出来た。怖いものなんて何もなかった。アイドルと呼ばれる人間だって、恋をして、結ばれて、そんな温かい夢を見ることだってある。彼は私の手を一番に引いてくれる存在だった。わからないことだってすぐに教えてくれた。私より劣っている物など何も無いように思えた。
信じていたのに･･･。それが私のありきたりな最後の言葉だった。
人を裏切る瞬間、その人はどんな感情を抱くのだろう･･･。
一年は私にとってとても長い時間だった。お互いの気持ちを重ねあう時間は大切にしてきたつもりだった。なのに彼は、私を裏切った。
その結末にあの事件が起きた。
〝男を切りつけるアイドル〟
最終的に私に投げつけられたのは、愚かな人間のへの総称だった。
今はこの顔が一番邪魔だった。もちろん売れてる間はよかった。
自分が大好きで、世の中何でも私の思い通りになる気さえした。そんな目先にないものを、いかにもあるかのように感じていた。
きっと私は、夢と現実の区別すらわからなくなっていたんだと思う。あの時の私は今の自分の想像なんてできなかった。未来は確かな物のはずだった。当たり前のことだけど、こんな顛末を予想することさえ出来ないでいた。後の悔いがこんなに辛いなんて。自分の責任の大きさを私は知らずに生きていた。
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表紙・目次

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