Impression~心の声
勇の強さに私は驚いた、それと同時に不思議だった。
「不安になった時はどうしたらいいの?」
「不安かぁ、、。それはいつだって誰の心にも存在するよ、きっとその大きさが違うだけ。壊れた物や、ついてしまった傷は消えないかもしれない、誰にも愛されないかも知れない、、。この先の不安、、。だけどそんな不安を抱いたって実際どうすることも出来ないだろ?どうなるってことは無いんだよ。だから僕は自分を信じる。ただそれだけでいいんだと思う、、。」
 勇が私の肩をそっと抱いた。私の背中を包み込むように、、。
「もう僕のために泣かないで、、。」
優しく透き通るその声は、私の心に染み渡った。
私は一瞬で恋に落ちた、、。本当の勇の姿に、、。
だけどそれはとても辛い現実だった。あのころの勇はもうこの世界には存在しない、、。
私は、勇の声が好き、美しい物を作り出す指先が好き。何が一番重要かなんてもう解らなくなっていた。私は勇の横顔をそっと覗き見た。写真の勇とは全く別人だった。何度も神様を恨んだ。彼をこんな姿にしてしまった神様を。勇の姿が生まれた時からこのすがただったのだとしたら、私はこんな感情を抱いたのだろうか。それは私自身わからなかった。勇をどうか元の姿に戻して欲しいと何時しか私は懇願していた。
「せっかく沖縄に来たんだから、浜辺にでも行って来て見たら?外はすぐに砂浜だよ。空気もいいし、海も空もきれいだ。」
 朝食を終えた勇が私にそういった。
邪魔だから私にそう促したのではないとすぐにわかった、だけど私はその言葉に従い少し外を歩いてみることにした。
 新しい日が明けまた新しい朝が始まった。だけど私のあたまの中は昨日の写真の青年、元の勇のことしか無かった。何時間もたった後の新しい朝ですら、私はその引っ掛かりをリセットできずにいた。
 私はドアを開け表にでた、そして初めて沖縄の風景を目にした。昨日は一日中勇の作業を見ていたし一昨日ここに着いた時はもう夜になっていて、気分も落ち込んでいたから、景色など何一つ目に入っていなかった。だからしっかりと沖縄の風景を見るのはこれが初めてのことだった。
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