Impression~心の声
裏のテラスの階段を下りると、そこはもう砂浜だった。私の薄いサンダルを履いた足が砂の中へとゆっくりと沈んだ。こんな感覚は何年ぶりだろう。まだ日はそんなに高くなったが、砂の温度は以外に熱かった。一歩一歩と足跡を残し私は浜辺に近づいた。波の音が綺麗だった。水平線の先に歪んだ蜃気楼が浮かんでいた。海と空の色が同じだった。風は暖かく。雲の道をゆっくりと作っていた。海がこんなに透き通っていたなんて、、、。私の汚れた瞳と心をこの景色の全てが洗い流してくれたらいいのに、、。その瞬間にまた涙が溢れだした。私は声をだして泣いた。全部全部この綺麗な海が何もかも吸い込んでくれればいい、、、。涙は私の頬をつたい、乾いた砂浜に染み込んだ。私は心が汚い、、、。自分のことしか考えていない、、、。人間てなに?運命って何なのよ、、、。
 私はひざから崩れ落ちた、、。
遠くで海鳥が鳴いていた。
 このやりきれなさ、寂しさは何処から来るのだろう。
 このぽっかりと開いた心の穴はふさがることはあるの?
 私は立ち上がり一人歩いた波打ち際を、寄せては返す波をよけながら、、。さらさらと海水に吞まれ何度も押し返される白い砂。珊瑚のかけら、、。水平線を走る一艘の船。この世界には私一人しか存在しないそんな錯覚に襲われた。
私は浜の一番南にある岩場に辿り着きいた。そしてその岩に腰掛けサンダルを脱ぎ、海に足をゆっくりとつけた。ひんやりとしていた。とても心地よかった。何時までもこうしていたかった。ふと足元を見下ろすと小さなカニが泡をたて岩の隙間の水溜りに潜んでいた。
 私は思わず微笑んだ。小さな命はこの海に沢山存在しているもかも知れない。そう思いながら私は水平線の先を見つめた。一瞬少し強い風が吹いた。
振り返ると丘の上に真っ赤なハイビスカスが咲いていた。丘の上には、ほうき雲が浮かんでいる。私はサンダルをはき丘を登った。風が青い葉をざわざわと揺らした。私のワンピースの裾もその葉たちと一緒に揺らされた。そこは何も考えなくてもいい空間だった。思えば私はいつも一人だったけど、こんなにも晴れ晴れとした気持ちになったのは始めてのことだった。
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