Impression~心の声
 私はハイビスカスを一輪つんだ。真っ赤なハイビスカスを、、。
一輪のハイビスカスを手に取り私はもと来た道を引き返した。来る時についたはずの私の足跡はもう跡形も無く消えていた。
 私はもう一度来た時と同じように砂浜に足跡を残した。砂を見つめゆっくりと歩んだ。帰り道小さなピンク色をした貝殻を2つ私は見つけた。拾い上げ、砂を落とし、、それをポケットにしまいこんだ。
 結構な距離を歩いたようで私は少し疲れていた。アトリエの裏の階段を上がる時、サンダルが乾いた音をたてた。
 扉を開けると壁に掛かる時計は十二時を廻っていた。どうやら私は一時間ほど散歩をしていたらしい、、。
 作業場の扉は開いていた。ゆっくりと近づくと勇の背中が見えた。
勇はチラリと振り返り私にお帰りと声を掛けた。
「お土産があるよ。」
私はそういって、さっきつんだ一輪のハイビスカスを勇むに差し出した。
「ハイビスカス、、。きれいだね。結構遠くまで歩いたんだね。」 
 私はこくりと頷いた。
「花瓶あるよ。」
 勇は向かって左側の棚を指差した。そこには深い青をした細身の一輪挿しの花瓶が置かれていた。私は早速手に取り、花瓶に水をいれ、アトリエのいつも食事をする時に使うテーブルの上にそれを置いた。
 花を見つめ私は小さくため息を付いた。椅子に座りまた、トンボ玉を手に取る、、。ゆっくりとハイビスカスの赤をすかしてみた。薄い水色と濃い青が、ハイビスカスの赤に溶け合い、美しい紫色になる、、。もしも私も勇とこんなふうに溶け合えたなら、、。あの時の勇に戻ってきて欲しかった。私はキッチンに入った。棚の中には買いためた食料が残っていた。私はその中から缶詰のミートソースとパスタを手に取った。今日は私がこれを作ろう。作るといっても簡単な物だけど、なにかどんなに小さいことでも私は勇にしてあげたいと思った。
「お昼、パスタゆでてみた。食べない?」
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