Impression~心の声
私たちは休憩を取った。思い出したかのように勇が言った。
「そういえば美鈴ちゃんペアグラスでサイダーを飲もうっていったよね。」
「うん、覚えていてくれたんだ、、。」
「飲もうかサイダー。」
 そう言って勇は外に飛び出した。車のエンジンが掛かる音がした、わざわざ買いに行ってくれたようだった。5分後に車が戻った。
「お待たせ、一番近くに買いに行ってもちょっと遠いんだ。」
 今度自転車をかわなくちゃねといって勇が笑った。勇はピンクと水色のグラスを棚から下ろしそれを軽く水ですすいだ。
「これ使うの初めてだよ。」
 少し歪なそのグラスがとてもかわいく感じた。
「かわいいグラスだね。」
「これは失敗作なんだ、昔、僕が始めて一人で全てを作ったものなんだ。」
 そのグラスにはぷくぷくと空気の気泡が閉じ込められていた。このグラスが百年後まで存在するのだとしたら。このグラスに閉じ込められた気泡たちは、百年前の空気になるんだ。時空を超えて勇の作品は人々に愛されえ続ける。思い浮かべただけでも素敵なことだった。
 勇はグラスにサイダーを注いだ。シュワっと炭酸が弾け当たりに甘い香りが広がった。
「乾杯。」
 私はふざけてそのグラスを勇のほうに傾けた。
「乾杯。」
 勇はそれに答えてくれた。私たちは一緒にのんだ、同じ物を。同じ物を飲み同じことを感じる。それはとても幸せなことだった。窓の外には青い海と、青い空が広がっていた。私はグラスをテーブルに置き、ワンピースのポケットに手を入れた。
 すると何かが私の爪にぶつかり音を立てた。私はそれをふと握り締めポケットから取り出した。それはあの時拾った2つのピンク色をした貝殻だった。
「なんだい?それ。」
< 75 / 96 >

この作品をシェア

pagetop