Impression~心の声

〝私の顔〟この顔で私はファッションモデルを皮切りに、バラエティー番組、ドラマ、ラジオ、とレギュラー本数を増やして行った。映画の出演も決まっていたし。プロデューサーに見初められCDもだした。一通りの仕事をこなした。売れれば売れるほど仕事は増えたし、町で声を掛けられる回数も増えた。行く先に張られた自分のポスターも当たり前のことに感じ、そんな自分にどこかで満足していた。世間の誰もが私を知り、そして私に憧れる。どこにいてもカッコつけて、誰かの視線を感じ優越した。
もしも私が、この容姿を持ち合わせていなければ、どんな人生を送っていたんだろう。今の私は時々そんなことを想像する。もしもそうだったとしたら、私はもっと違う人生を生きることが出来たのだろうか。もしかして、もしかしたら、今頃は平凡な誰かと結婚し、平凡で、小さくて、だけど満ち足りた幸せを感じながら生活していたのだろうか･･･。
平凡な生活。平凡な自分への満足。今の私にとって、そんな現前の知覚に与えられなかった物事の心像を心に思い浮かべている時が一番辛い時間になった。
　全ての物を分け隔てなく、世界中をあまねく濡らす雨のように。神様は全ての人間に同じ人生を与えてくれたなら。こんな後悔なんてしなくて済んだかもしれないのに。
　怖かった、私が知らない私を知ってる人間に出会うことが。
　あれ以来、ほとんど外に出ることも無く、人と接することを避けて生きてきた。
「私はアイドルだった。」
　ふと一人言葉を漏らした。
　後悔と否定･･･。アイドル。その言葉をもう一度思い浮かべた瞬間。とてもくだらない物に感じた。偶像崇拝にも似たその根拠のない主観的な想像物に、誰もが憧れを抱くことを、そんな信念は病的としか言いようがなく、事実の経験や理論によって訂正されることなんて無いものなのに。いくらみだりな思いをいだいたって、遠くから誰かを思ったって。その正しくない想念は誰の元に届くこともなく、ましてやその思いが容易に解決されることは無い･･･。